人間の大地
小池房枝

国を統べる覚悟はあるか
国土も、国民も、法も王も
たった一人
自分一人だけの王国を

心身全くもって健全な人間などいない
そんな理想の国など
どこかにならあるというものではない
五体や
五体以外にも
不足不満足だらけのものたち
ありとあらゆる過ちや病いとともに
寿命の限りを老いさらばえてゆく

けれどそれ故に自分という大地を
どちらかといえば不毛の土地を
人から受けた仕打ちばかりを
呪詛とともに鋤きこみ続けたような田畑に
なお実る日々の糧や
めったに換金できぬ作物や
目に入ったところで特に美しいとも思えぬありふれた草花を
慈しめるか

ごく稀にしか優しかったり穏やかだったりしない
洪水や日照りを繰り返しがちな日々を
かといってその激しさゆえに
いっそ爽快であるというわけでもない風や嵐
願っても祈っても途絶えがちな水脈を
これが故郷
これが故国と
思い定められるか

出来るならば旅立つがいい
誰かを迎え入れるのもいいだろう

そうして出来るならば
いつか/いつでも帰って来るがいい
何度でも何回でも
そこに/ここにこそ骨を埋める為に

その時にだけ少しは地味も増すだろうから
その度に少しずつ土地も肥えていくだろうから
うまくいけば
やがて誰かが足早に通り過ぎるとき
木陰のひとつも投げかけてやれるかしれない

そうしてその時
骨は/自分は
すっかり土に還っていなければならない
王国のたった一人の民として
王として
大地そのものとして

旅人の足をつまずかせたくなければ
その時までには
必ず


自由詩 人間の大地 Copyright 小池房枝 2010-06-22 02:34:14
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