僕は妖精と会った
岡崎師

あれは数ヶ月前の事だ。
僕が毎日酒を飲んで、適当に仕事をして生活していた時に知り合った一人の女性の話をしよう。
その日僕は覚えたての酒をすすきののバーで一人飲んで いた。隣からはなにやら文化的な話が聞こえたが、僕にはどうでもよかった。
酒さえ飲めたら良かったのだ。別に仕事、生活に不満があったわけではないが、体 調が優れず、酒を飲まないとやっていけなかった。
僕はその日も二、三杯の酒を飲み干し、終電近くの地下鉄で帰ろうとした。
帰り道、僕はいつもは通らない道を通って地下鉄に向かおうとふと思い、狭い道を通り、帰っていた。
誰もいない、細い路地に君がいた。しゃがみ込んで、なにやらぼーっとしている。空中のある一点を見つめているようだ。
僕は酒の勢いもあってか、その子に声を掛けた。「なにをやっているの」彼女はその大きな目を僕に向けて、不思議そうに言う。
「XXXXX?」
僕はその言葉に笑い、彼女にお酒でもどう、と誘ったとおもう。また別のバーに彼女を連れて行き、1時間ほど飲んでお別れしよう。
彼女は外見に似合 わず、かなり喋る子で、僕は1時間ずっとうなずきながら話を聞いた。
硝子窓から見下ろすことの出来る36沿いは、タクシーが縦列駐車をし、煌びやかなネオ ンが街を彩っている。
様々な人間がその道を通り、誰もが別々の目的で、別々な場所へと向かう。空には星が一つだけ見えていた。
僕はその星と、地上7階から見下ろす事の出来る景色を見比べながら左から聞こえてくる彼女の声に耳を澄ませる。
彼女がトイレに立っている間に、会計を済ませ僕らは帰る事にした。終電はとうに過ぎ、帰る方法はタクシーだけだった。
お店を出て、僕らはどの方向 を目指す訳でもなく歩き、言葉を交わすこともなかった。
タクシーを拾うこともせず、これからどうするかともお互い口にせずに、人通りの多い道を歩く。
数分歩いて、僕は彼女に家にこないかと、そう誘ったはずだ。彼女は頬に笑みを浮かべて、「はい」とちいさく頷いた。
一緒にタクシーに乗って、僕の家へと向かう。どちらからともなく手を繋いで、車は新道東へと向かった。車内は静かだった。
窓から流れる景色は、とても温度があるように、まるで魔法の時間を眺めているみたいだ。
やがて家へ着き、僕は鍵を開け、彼女を部屋へと誘った。口づけをして、魔法が切れていない事を僕らは確認しあった。
朝。目覚めると隣に彼女はいなかった。枕元にメモがあり、小さな整った字で、一言こう書かれていた。
「XXXXX?」


散文(批評随筆小説等) 僕は妖精と会った Copyright 岡崎師 2010-06-21 08:12:34
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