すきとおる
あ。

桜に混じって散り始めた朝も
川面を滑る鴨たちの口ばしも
濁さないほどそっと静かに
重ねた手のひらからさらさらと
留まることなくこぼれて落ちる


喉元がとくとくと同じリズムを刻む
指の腹で少し押して確かめてみる
わたしは今、生きている
とくとくと、変わらない速さで


からだの先から消えてゆく、どんどん
何も変わらない、変わらない
目にうつる全部はひとつぶだって
増えることも減ることもない



   (でもきっときみは、泣くでしょう?)



無情な美しさに入り込むには感情を持ちすぎていて
透き通ることでしか折り合いをつけられなかった
溶けきれずに残った爪の欠片は大気に絡みつき
ざらざらと引っかき傷を増やしてゆく



   (きみの呼吸が熱かったら、飽和量は増える?)



透けて溶けて平らなひとつになったわたしは
誰にだって気付かれないし描かれない


透き、通り
握った激情、で
きみに、傷を付けた


自由詩 すきとおる Copyright あ。 2010-06-20 21:21:35
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