『残さるる』
ま のすけ
大勢の声と、笑いと、熱やそういったものたちが、
フッ と とぎれて、
気が付けば
取り残された私を覆う
いつもの駅の案内の音声と
改札の外に外を創っている雑音
平穏な中、
外殻を外殻通りに見せている私ではあるけれど、
中味はどうだろう
ゆうべ きのう きのうの朝 と
遡って記憶をたどってみても
いま甦るのは、もうすでに実体をともなわぬ幻影だし、
つまりは知覚不可能なアミノ酸らの起こす化学反応でしかない。
おおぜいのオジサン・オバサン達が、
バスの中最後に歌っていた「今日の日はさようなら」
6回繰り返したら、記憶と残るか?
9回繰り返したら、側頭葉の細胞に皺が刻めるか?
(などと瞬間揺れたとて、
実際には、そんなことするはずもないのだけれど )
わたしが、誰かの記憶に残ったろうか
わたしの微笑みが、記憶にのこってくれたろうか
わたしの微笑みのウラにあるささやかな哀しさが
誰かのどこかに、やわらかな共鳴を起こしたろうか
時間が、時間が、時間が、人が、
なにかを載せ、なにかを沈め
遠くへ移動する。
*団体旅行という、ある意味「非日常」からの帰還に
うまれた詩です。