総武タイムライン
伊織

ある日
この場所から消えてしまった人は
声も姿も引き剥がされ
記憶もやがて途切れてしまう



物理的には
どちらも総武線沿線で働いているが
私たちはお互いに点だから
交わることもなく
引き合うことなどましてやなく

半年

一年

二年

それぞれ忙しく汗をかき
ときどき息抜きにディスプレイを使う



さてはて
そうしていましたら
上流から
見覚えのある名前が
どんぶらこ
どんぶらこ

拾ってみたら
その人でした



それ以来
ネットの川に流れる切れ端を
毎日浚っては掬い上げ
断片を繋ぎ合わせ
生きていることは確認しましたが
テンプレートで語る彼の言葉は
誰にも向かわないベクトルのつぶやきで
プレパラートに彼を閉じ込めてしまうのです



一方
私は砂だの泥だのにまみれながら
野性で遊んでおりました
あまりにも整いすぎた標本に
一抹の殺意を覚えても
所詮世界も言語も違うのですから

卵かけご飯とともに流し込むのです



そうして
今日もまた砂金を掬っていたならば
いつもと具合が違います
アフター5に連投された言葉は
敬語を忘れ
少し現状を嘆いてみるテスト



  ――線は繋がった
  出て行ったあいつは
  やはり相変わらず饒舌で
  やはり相変わらず毒舌だった



何だ、人間好きなんじゃない。




安堵した私は今
この現実を反芻している
例え人身事故で電車が遅れようと
500エラーでサーバーが不安定でも
私たちは心配ない
生きて行く限りにおいて
心配ない


自由詩 総武タイムライン Copyright 伊織 2010-06-19 00:14:49
notebook Home