こどものころ
かんな

いつ果てるかわからない
通学路の行きつく先について考えていた
履きなれない道で靴擦れを起こして泣いた
あの時頬を叩いたのは母だった

空を水色で塗りたくれば正しいと
押しつけられたような気がしていた
群青はとおくへと流れていって

辱められたわたしの誠実な幼さが
いつまでも乳房を離さなかった
痛みはぬくもりへと吸い込まれていく

兄は堅実な幻想で
姉は甘美な誘惑のかおりがした
ふたりの足跡をなぞることを覚えたのは
きっと雪の降る夜が明けた日の朝

与えられたおもちゃに統一性を見いだせば
それはことばだった
手触りも匂いも味もない
ことばのブロックばかりを組み立てていた
かろうじて形作られたものがおそらく自我だった

いきる意味を考えるほど海は広くはなく
しぬ理由を求めるほど狭くもなかった
夕暮れに染まる砂浜をすくいに自転車をこいだ

具体性のないものほど
わたしは欲して止まなかった
そして誰にも伝播していかない唯一の存在を
いつも探して止まなかった

成長という過程をいつも仮定していたように
おとなになることを望んでは
幼さをかきむしる日々を過ごした

じりじりと肌を焼く太陽の熱を知ったとき
ひりひりと熱を冷ます月の冷たさに触れたとき
わたしの本能にすみついたいのちが芽吹いた

あれは泣き方を忘れた日の夕暮れ
ベッドでひとり自慰をするわたしが夢みた現実は
途方もない速度で夜という未来に吸い込まれた

行き先はどこだ
何処かへ行ってしまう吸引力に逆らって
わたしの背丈分だけ傷ついた柱にしがみついた
みしり、と音がしたような気がして

わたしは行くよ

大人びたわたしの破片だけがせつなに刻まれ
母の胸元から羽ばたいた気がした



自由詩 こどものころ Copyright かんな 2010-06-16 17:30:44
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