ベンジャミン

それから僕らは目を閉じて
懐かしい記憶がまるで現実になるのを
ただ暗闇の中に見つめるしかなかった

夜は
真っ暗なだけじゃないと
遠い星々がささやいている
けれど確かにその暗さは
いろんな境目を消して
どこからどこまでが空かとか
わからなくしてしまうんだ

あの日
僕は最後の蛍を見た
もしも僕が子供だったら
夢中になって外に出て追いかけて
空を何度もつかもうと
手を振りかざしたに違いない
けれどそのときの僕には
それが蛍だとはっきりとわかったから
まるで信じられなかったんだ

蛍は
もうずっと昔に
いなくなってしまったと
あきらめてしまっていたから

ゆらりふらりと
そして点滅を繰り返しながら
消えたり現れたりしている蛍を見て
僕は夏の湿った空気がどんなに目にしみても
まばたきをしたくなかった

窓枠にもたれながら
いつまでも一緒にそうしていたかった

でもそれも
記憶になってしまった
いくら思い出そうとしても
あのときと同じ光はもう見えない

似たものをさがすように
星を見上げる

戻ることのない時間のように
どうしてもぼやけてしまう
その小さな光さえも

たぶんもうじき
かすんでしまうのかもしれない


自由詩Copyright ベンジャミン 2010-06-16 02:55:43
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