ゴールデンウイークはパチンコ三昧にした
お盆をとらない代わりに休みをすべて貰えた
市内のホテルにユキオと合宿をはりそこから毎日パチンコを打ちにいった

ちいさなころ町じゅうのパチンコ屋にお母さんをさがしまわった
音のかたまりの中をはや歩きでさがしまわった
そこにいなければ次
見つけたら、かえろうよ、お母さんのひじを揺らした
無駄なことだとは分かっていた
かえろうよ、お母さんを困らせたかった

夏休みだったとおもう
お父さんと姉とテレビを見ていた
ヨシミは玄関にチェーンをかけていた
なにか音がすると思ったらベランダからお母さんが入ってきた
汗だくだった

チェーンかけたのヨシミだろ、

にごった目でお母さんがにらむ
お父さんがちらっと見てタバコを消し一階におりていった

お風呂はいったら、

姉がそう言うと

おまえはいい子だねえ、

お母さんが冷蔵庫からなにかをだす音がした
食卓にすわってコップにお茶を注いでいた

そろそろ帰ろうか、ユキオがヨシミをのぞいた
出玉を積み重ねたひとがまばらにいるだけだった
いちぶをお菓子の景品にかえてあとは貯玉にした
ホテルまでをぷらぷらと歩いていた
欠けた月がまるで町に住んでいるように見えた
カワバタはいまタイにいる
タイはいまなん時なんだろう
ヨシミはよろけそうになってユキオにしがみついた

しっかり歩けよ、足に来たの？

ユキオを見つけたのはパチンコ屋でだった
ヨシミがホールでバイトしていたときだ
ユキオは毎日のように打ちに来ていた
すれ違うときわざとぶつかったりした
打っているユキオに絵本のイラストを書いて渡すようになった
なん話めかのときユキオが

これって、月を洗ったおばあさんだろ、

そう言って紙をくれた
この絵本持ってるならかして、と書いてあった
ヨシミはおおきな本屋でその絵本をさがした
おおきそうな本屋を見つけるといまだにさがしている
ユキオもさがしているそうだ
お母さんが買ってくれたお母さんもいちばん好きだと言っていた絵本
それがどっかにいってしまった

くびをまわすようにして夜空を見渡した
パチンコのし過ぎだろう
首がみりみりと音をたてる

あたし目がいいから、見てるとどんどん星を見つけれるんだ、

ユキオがふらあっと車道に出ていった

三角形みたいになってるみっつ見つけたぞ！

ユキオが車がいなくなった車道の真んなかで叫んだ
ユキオがヨシミのとこに戻るとこんどはヨシミが車道に飛び出した

あぶないぞ、はやく戻って来いよ！

ユキオが見つけた三角形が分からなかった
オリオンってどこいっちゃったんだろう
いつのまにかヨシミはオリオン座をさがしていた
ユキオがまた叫んでいる
タイはオリオン座みえるのかな
視線を落とすとユキオの言ってた三角形が分かった
ユキオが迎えに来てくれていた

オリオン、え、どこ？

見えないからさがしてるんだよ、下のほうににいっちゃったのかな、

夜を見上げてふたりでぐるぐるとまわってみた
三角形のみっつの星いがい宙にはなにも見つけられなかった

氷と炭酸水を買ってホテルにもどった
ユキオにあれをつくってとたのんだ

あれか、わかったよ、

ユキオがはまっているという焼酎のソーダ割り、ユキオはそれを蛇つかいジュースと名づけていた
焼酎のボトルがもう半分に減っている
こいつを飲んでると蛇つかいの笛の音がきこえるんだ、そう言ってるけれどヨシミにはなにもきこえなかった

あしたもあさっても、パチンコでいい？

あたしらそれしかないでしょ、

その言い方さびしくないか、

最高のほめ言葉だよ、

ありがとよ、できたよ、

ユキオのことを話したときカワバタがこんなことを言ってた

ヤスダさんのパチンコ好きは、お母さんとお父さんの関係に影響されてるんじゃないか、

え、どういうことですか？

うん、パチンコしてるじぶんを愛してくれるひとをさがしてたんだよ、

はあ、

ファミレスでドリンクバーとミニドリアひとつをふたりで食べていた
温泉旅行の話はなんの進展もしていないのにふたりはもうなんども会っていた

パチンコのせいでお父さんに愛されなくなったお母さんの、きみはリベンジしてるんだよ、

あたしバカだから、カワバタさんの言ってることすぐには分からない、でもそれ考えてみます、

目には目を、歯には歯を、ハンムラビ法典って聞いたことあるだろ、

ハンムラビ？

聞いたことない？

はい、

目をつぶされたら相手の目をつぶしかえせ、ってやつ、復讐法とかって言われてる、

あたしそんなんじゃありません、ヨシミは悲しくなって反論した

復讐なんて言葉とり消してください、

ごめんごめん、オレもこれにはちがう解釈をしてるんだ、目をもらったら相手には目をあげなさい、歯をもらったら相手には歯をあげなさい、なにかされたらそのなにかとおんなじものでしか相殺されないってこと、

相殺？

そう、相殺、パチンコ好きのせいでひとから大切にされなかったという思い出は、パチンコ好きでもそんなじぶんを愛してくれるそんなひとからの愛情でしか癒せませんよ、ってこと、

ファミレスからは国道が見えた
そとはにじんだ群青いろだった
群青のなかにはヨシミのカルテがあった
群青のなかに曳かれた影にヨシミはカワバタに言われたことをさがしていた
相殺されていないことが多すぎるんだ
カワバタをもう相殺できないじぶんをカワバタに伝えたかった
あのときたしか救急車の音がして、そとの群青に赤がながれて・・・・

ヨシミも蛇つかいジュースの虜になってきたね、

嬉しそうにお菓子をつまみながらユキオもじぶんの蛇つかいジュースを飲んでいる
ホテルにはいってテレビをつけないときはそういうことだろう
ヨシミはユキオに脱がせてと言いそのまま寄り添ってきたユキオを制した
ユキオが苦笑してとなりのベッドに倒れこんだ
ヨシミは蛇つかいジュースをひとくちふくんで、飲みこまずに口を閉じた
やはり笛の音はきこえてこなかった
貧乏揺すりのような感じでユキオが足をばたつかせている
ヨシミにはそれが、音のしない笛の音のようにきこえた