蝶をみる夢
ベルヤ
検問で氏と所在を訊かれ
タクシーを降りあなたのところへ歩いた
白い蝶がうれしそうに僕にまとわりついて舞う
ふっと、あなたを思った。
はなの季節の狭間に整えられた樹木の枝葉
みどりとすこしのあおぞらそしてしろのくも
ほんとうは今日なんだ
ほんとうは午前零時の前なんだ
機械もゼロを告げたから
波動の小刻みなうつくしさに
誰も触れないで看まもる静かな部屋で
ひんやりとした床が天井の灯りを映し
桜は見事だったでしょ、ツツジも咲きほこって
いまはまばらなはなのさみしさにごめんなさい
この曜日は誰もいないって思ったから
四時起きで始発に乗り車に乗った、すぐに帰ります。
ひとりぼっちで水を汲む
ふたつに分けて水を汲む
じゃりじゃりの音と感触がなつかしく
いつもこうしてここへ
そしていまも道を歩いてる
そして、あなたはずっと待っている。
ひとめ見て分かったよ、さみしそうな顔をして
のどがかわいていたのでしょうごめんね
その前に、僕は一生懸命
あなたを洗ってあげなくちゃならない
埃まみれな事が気分悪いに決まっているから
黒ずんだ苔のようなところも
生まれたての草が生きてるようなところも
奇麗にしてあげるから
しろときいろとうすべにいろのきくのはな
のどかわいたでしょあげるよごめんなさい
炎みえ白い煙も精一杯にまとわりつき
分かったよほらほらとふたつに分けて入れてあげる
どれくらいなのか認めたくない時と対話し
つもる話をいっぱいして
互いの顔もよく眺めあい
どうすれば安堵するんだろうといつも
坐ったり立ってみたり近寄ったり放れたり
はなれがたいきもちになみだしわかれをつげる
そしてまた、じゃりじゃりとした音と感触を辿り
振り向かなかった。
誰もいない道へ出て歩む僕に
ふたたび白い蝶がまとわりつき舞う
さみしいですかさみしくなんかないでしょう
時と対話しお別れを告げたのだから
持っていた濡れ傘は、あなたのところへ来る度に青空だから
乾いてしまった傘をたたみ、清々しいと思う僕は
変りつつあるのかもしれない
検問を再び受けて氏と場所を告げれば
相手はこの曜日、事件が起こることが多いのでと喋るので
ふと、あなたをおいてゆくことへふりむこうとしてしまった。
僕は指定席をおさえ電車に乗り込み
はあと、どっぷりシートへ埋もれた
車窓の蝶が舞う景色に浅い眠りへついた僕を
若い女性の囁きに覚まされ
キリンですかアサヒですかと聞かれて
キリンがあってうれしいと僕は思い
ビールを飲みながら
疲れは安らぎを保ち
新宿駅の雑踏へ呑み込まれていった
僕は少しずつあなたを受け入れることが出来るようになり
帰宅して朝を迎える日が、刻まれたあなたの日ですが
僕とあなたのふたりだけの
だれにもかたりたくないたいせつなおもいでを
ずっとわすれない。
哀しみでなく平安に眠ることが
確かめられたから
あの白い蝶はあなたでしょう
あの白い煙もあなたでしょう
いつも僕の傍にいる