紅茶が冷めるまで
かんな

学生のあの頃
異様な夜のさびしさに駆られて
親しい友人の家に遊びに行った
そんなことは珍しくなくて
ふたり
ベランダで煙草を吸い
きみはギターを弾いて
わたしはその歌を口ずさむ
現実を浮遊させるメロディのような


眠れないと話す
わたしの口調に少し重さを感じたのか
軽く頭を撫でるきみ
触れるのは珍しい
ガラス越しに見る月の、その欠片
ちょっと待ってな
そういってキッチンへの扉を閉めると
ガタガタと何かする音
わたしはぼーっと宙を見つめる


ふわり
飲むとよく眠れるから
出てきたのは紅茶だった
薄っすら湯気がのぼる、匂い、微かな
りんごの匂い、アップルティーだった
飲もうとすると
まだちょっと熱いかも
そう言うので手を止めた
そんな間を空けるから
言ってしまう
ねぇ、飲んだらここで寝てしまうよ


寝ればいいよ
ベッド空けるから、大丈夫、な
おまえ、よく眠ったほうがいい
そう言って苦笑う
お互いアップルティーだけ見つめて
向かい合う
それはあまりに
むずがゆくて
冷めるまでは待てなくて
わたしはアップルティーに手を伸ばした
こくり、





自由詩 紅茶が冷めるまで Copyright かんな 2010-06-10 16:50:08
notebook Home 戻る