小鳥とカラス
吉岡ペペロ

カワバタの車のなかでヨシミはこのまえ見た小鳥とカラスの話をした
お父さんが山で汲んできた水をポリタンクに入れてお母さんに持ってゆくのだった

まだかわいてねえな、

さんざんドライヤーで乾かしてあげたんだから文句いうな、

カワバタはパンツをヨシミの血でよごした

むかしおばあちゃんに読んでもらった絵本でね、

ヨシミは絵本の話をカワバタにした
インドかどっかの修行僧の話だった
腹がへってるのでおまえの目をくれ、じぶんよりうえの階級の男が修行僧にそう言ったのだった
修行僧は片方の目をとって男にやった
男は目を口に入れてひとくち味わうや
まずい、と言ってその目を吐き出した

これってたぶん、尽くし損に徹する大切さのお話なんだと思うんだ、

そんなの意味ないよ、

そう、あたしもそう思うの、男はほんとうにお腹が空いてて、ちょっと頭もおかしくなってて、目を食べたらほんとうにまずくて、なんの悪気もなく吐き出したんだと思うの、

小鳥をさらったカラスみたいに、

そう、ほんとそうなの、小鳥をカラスがさらっていったとき、なんかおおきなくちばしが、ほんとやわらかく小鳥をはさんでね、それで片目の修行僧のお話しを思い出したの、

わかる気がする、ぜんぶ生理のお話しなんだよな、

悪気なんてみんなないんだって思う、

オレのパンツもおまえの生理のお話しだ、

遠いなだらかなのぼりおりの多い街道を走っていた

よくさ、感動って、感じて動くとか言うじゃない、あんなのウソだよ、レ点があるよ、動いて感じる、これがほんとだよ、

ヨシミはカワバタの言葉を頭の中でくりかえした
動いて感じる、動いて感じる、それはヨシミじしんのお話しだと思った

それ、シンゴとヨシミみたいだね、

みんなそうだよ、

バーガーショップに車をとめてカワバタにポリタンクを持ってもらってヨシミはお母さんの家にカワバタを先導した
雲色に力をうしなって午前中ほどのまぶしさは失われていた
この町にも影はなかった
ヨシミはじぶんの足もとも確認しカワバタの足もとを見やった
それをカワバタに言おうとしてやめた
カワバタが嬉しそうな顔をして重たいポリタンクを両手にさげて歩いていた






自由詩 小鳥とカラス Copyright 吉岡ペペロ 2010-06-10 09:25:08
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