私と子象
within
象が一匹いなくなった。いつも母象に寄り添
っていた子象がいなくなった。祖父の魂を斎
場から河原へと運びに行っているうちに、行
方が知れなくなった。魂の流れに誘われたの
だろうか。母象は何もなかったように、長い
鼻を宙に伸ばし、祖父の死を悼んでいる。友
達を失った私は、棒切れを片手に森の道を歩
いた。行き先については考えたくなかった。
隙間に入り込んでしまったなんて思いたくな
かった。青と黒で彩られた時間の停止する場
所に入ってしまったのかもしれないと思うと、
私は御飯も食べられなくなった。そのうち母
さんが心配し始めたので、私は父象の元を訪
ねた。
あきらめるな、隙間から出てきたものもいな
いわけではないのだ。お前が心に秘めている
だけでいい。忘れずにいてくれさえいれば、
きっとどこかから現れるだろう。そうすれば、
同じ河に流れることができる。
見上げれば、空は白く薄い雲に覆われ、小粒
の雨が、細長く垂れていた。濡れていく肩に
私の小刻みな哀しみが滲んで消えていこうと
していた。長い時間の中で私は数学に頼るこ
とをやめようと思った。虚数空間から出てこ
られる確率は、私が再びこの町に産まれてく
ることよりも小さいのだから。一筋の奇蹟の
到来を願って、石を積もう。