私と子象
within

象が一匹いなくなった。いつも母象に寄り添
っていた子象がいなくなった。祖父の魂を斎
場から河原へと運びに行っているうちに、行
方が知れなくなった。魂の流れに誘われたの
だろうか。母象は何もなかったように、長い
鼻を宙に伸ばし、祖父の死を悼んでいる。友
達を失った私は、棒切れを片手に森の道を歩
いた。行き先については考えたくなかった。
隙間に入り込んでしまったなんて思いたくな
かった。青と黒で彩られた時間の停止する場
所に入ってしまったのかもしれないと思うと、
私は御飯も食べられなくなった。そのうち母
さんが心配し始めたので、私は父象の元を訪
ねた。

あきらめるな、隙間から出てきたものもいな
いわけではないのだ。お前が心に秘めている
だけでいい。忘れずにいてくれさえいれば、
きっとどこかから現れるだろう。そうすれば、
同じ河に流れることができる。

見上げれば、空は白く薄い雲に覆われ、小粒
の雨が、細長く垂れていた。濡れていく肩に
私の小刻みな哀しみが滲んで消えていこうと
していた。長い時間の中で私は数学に頼るこ
とをやめようと思った。虚数空間から出てこ
られる確率は、私が再びこの町に産まれてく
ることよりも小さいのだから。一筋の奇蹟の
到来を願って、石を積もう。


自由詩 私と子象 Copyright within 2010-06-10 06:04:11
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