過去を抱く
はるな

愛情は肉のかたまりのようです
二十をこえても十の少女のようだった脚を
愛情はたやすく女のそれに変えてしまった
胸にも腰にも腕にも愛情は柔らかく実って
腕のすき間から零れるような身体ではない

若い枝のような2本の脚が
滑稽なランドセルを背負い
深緑を泳いでいく

 かあさん
 私の脚があれほど頼りないころに
 そこに赤黒いあざをつくったのは
 過ぎた愛情によるものだったのでしょう?

検査薬の一本線は
私の人生にも一本の線を引くことになる
そして私を女性に変えたひとの人生にも
私の肉のかたまりはますます柔かくなり
これからいろいろなものを守る鎧になる

バギーの中の透き通る瞳は
のぞきこむ母親の影に触れ
安堵の湿り気を帯びる

 かあさん
 私は覚えてはいないけど
 あのくらい幼いころには
 同じように覗きこんでくれたのでしょう?

私に愛情を与えた二本の腕のように
私の二本の腕は機能するのだろうか
その瞬間には獣のように本能だけで
守るべき小さなものを抱くのだろうか

 かあさん
 実った肉体は
 抱かれたように
 抱くためなのだと
 かあさん
 あなたの口から
 言ってくれませんか
 かあさん
 わたしがされたように
 あなたも抱けばいいのよと
 あなたの口から



自由詩 過去を抱く Copyright はるな 2010-06-09 00:28:25
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