ヒステリカル-ロジック-03 行方不明最先端都市
北街かな

硝子造りの七色都市構造が、瞬間的大瓦解を経験した夜明け
かつてない沈黙と瓦礫の地に、透明な砂がきらめき流れてゆく

ひときわ目立つ明星の下、
青く波立つ薄い硝子板に挟まれて
銀の髪もつ鉄製の精密機械少女はライトグリーンの室温管理用液体薬物を頭からかぶり
右腕と背中と左足首に刺さった硝子のカタマリを引きずり、動き出す

首をあげ
無音を聴き、
まばたきで砂を振りはらい
かつて街だった場所がひろがるのを両の水晶体に焼き付ける。

ことごとく高さを失い へこんだビルは
きれっぱしになり、砂になり、もしくは溶け出して
あちこちに人の死骸や機械人間の手足を畳み込み、閉じ込めて
硝子のなかに煩雑にねじこんでしまって
なおのこと、押し黙る。
こわれた街は透明なんだか半透明なんだか
それでも七色のまま、ぼんやりとひかって、
そこらへんにしんみり広がっていた

東のそらは黄色なんだか桃色なんだか
西のほうは紫なんだか藍なんだか
それこそ、無言の地平に横たわる街だったものと
よく似た七色で
空も地上も、なんだか判然としないまま、
ぴゅうと気の抜けた空っ風を吹き流しているばかりで脳が病んでくる
耐え難いと判断した
鉄の少女は
喉からよくわからない音声をむず痒そうに小さく発した

七色の街の上空では
アドバルーンやパトローラーや気候衛星や
ぜんまい式伝書鳩やくさび型電波や暗号や高音低音低速超速の規則的律動などが
いそがしくばからしくあっちにホイこっちにバビュンと
無意味なデータを打電しあっていた気がしたけれど
この砂と瓦礫のつづく
なんとなく区画されていたかのような場所は
ただその上方に
消えかかった明星を戴くのみだ
あんなにうるさくてだいすきだった、ののしりあいや友好的談話模様や空っぽの平和音楽は
いったいどこにいっちゃったのだろう?

飛びでた原色のコード類から体液やらなんやらをだらだらずるずる、滴らせ
かつての交差点に出てみれば
信号機だけがひょろりそびえていて
ぺかぺかと三色を交互に断続的にまたたかせていて
どうやら彼はだれかと話をしているらしいのだが
機能停止も間近の少女は
それの意味を汲むことはできなかった
ただ
ひどくなってきた砂嵐と その向こうの眩しい太陽を突破するように
あごをあげ、なるべく高く、たかく
救難信号を発するのだった

ハレルヤ、ハレルヤ、僕らきっと砂に消えるよ
かつてここでにぎやかにしていたよ
ハレルヤ、
ありったけの色彩を、透明のモニュメントに映し出し
あらゆる物理的・心理的交錯がさまざまの意思決定体のあいだで葛藤もし
ときどきは安堵もしていたよ?
そうだ、おもいだした
恋人の猫の毛並みをうつくしく揃えにいかなくては
だから、だれかここへ
ハレルヤ
砂に消える前に。


自由詩 ヒステリカル-ロジック-03 行方不明最先端都市 Copyright 北街かな 2010-06-08 19:42:42
notebook Home 戻る