わたしの願い
はだいろ
地方の映画館で、映画を見た。
素直な青春映画で、
批評家には馬鹿にされるだろうけれど、
わたしは好きだった。
客は、わたしひとりだった。
もし、わたしがその街へ、
出張で行かなければ、
その映画館は、
この青春映画を、誰も見ないスクリーンに向かって、
カラカラと映しつづけたのだろうか。
その映画を待つあいだ、
同じ階の洋食屋で、
ランチを取った。
すると、その店の制服をまとった、
新人さんが、お水をたどたどしく運んできた。
なんて可愛いのか。
わたしはこころから、
その子の可愛らしさに、こころを撃たれた。
750円のランチを注文した。
女の子のネームには、
大橋と書いてあった。
大橋さん。
隣のテーブルのこどもが、
ひとみしりすることなく、笑いかけて、
大橋さんも、笑い返す。
なんて白い耳に、
わたしは舌をねじこみたいと思った。
もしも生まれ変わるなら、
わたしは、
大橋さんの、
彼氏として、
生まれ変わりたい。
この六十億の人類のなかで、
それでもたったひとり、
大橋さんの愛をつかむ人。
わたしの願いは、
その人として、
もういちど、生まれ変わることだ。
だれも見ない青春映画のなかの、
青春のゆめと心の傷に、
わたしは泣いた。
泣きながら、
もういちど、
もういちど、
生まれ変わることを、わたしじしんとして、
夢見ていた。
知らない、地方のまちで。