【連詩】 指きり
古月

幾つかと問われればただ指を折る
頃を過ぎてもただ指を折る
背伸びをし過ぎた私の深い爪から
こぼれ落ちる魚
夜の底の青
水面をすくう
静かに、丁寧に
どんなに気を配っても
波紋は広がる、響く水音
指先にちらちらと、魚の鱗が
舞う、わずかな月の
ひかりだけで照らされている
掬えない月の面影
指先から凍っていく水明り
ちらちらと、魚の鱗
にせものの月のひかりめいた
私の写絵

影をのみ込む
ねむりを支えて
波間を漂ういくつもの私が
これは夢
、それとも うつつ
どの顔もどこか歪んで
散らばっていく私たちの輪郭
雲の行方とどこか似ている
湖の奥ははてしなく遠く
浮遊し潜水を繰り返す
こころが剥がれて落ちる脱皮する魚
かな、野? 落ち込まれた水際にいたいの
利き腕が散らされ、た、の。
のみこまれて、輪郭に爪の柱が、
流れてイッタの
そして分化していく、
複眼を指で潰して
私はこぼれ落ちる魚になる

水面に揺蕩うひかり
差し出す腕を持たない私は
身をよじらせるだけで
為す術をもたない幼児のように
銀の鱗は こぼれてこぼれて
咲かなかった向日葵の種に変わっていったよ
せめて散末に生まれたら「よかった、の?」
輪郭、その他の、色彩を持たなかったらよかった
野、かな?

夜の、底にいる
私たちはとうめいな、からだ、で
屈光性を帯びた
指の芽生えを待つ


自由詩 【連詩】 指きり Copyright 古月 2010-06-06 03:16:49
notebook Home 戻る