オレンジいろの汗
吉岡ペペロ

還暦をむかえたばかりのお母さんの夢を見た
このまえの夏ヨシミは姉と姉のこどもとお母さんとで還暦の旅行をした
旅先で見た原始てきな川がつよく流れていてそれは前日までの雨で増水もしていたようだった
お母さんは株とパチンコでお父さんに離婚させられて今は警備のバイトをしていた
ヨシミは川に流されていた
立とうと思えば立てるほどの浅さであるのに体中を石にぶつけられていた
ひんやりとした川の流れだ
いや、ひんやりとした川の流れは川ではなかった
川の色をしたちいさな蛇の大群だった
だから立とうとしてもバランスを押し戻されていたんだ
鈴の音がした
石だと思っていたのは蛇の頭だった
川の音が絶えなかった
それは鈴の音だった
サヤマがユキオと歩いていた
歩いているのをどこで見ていたのか
どこを見ていた
鈴の音はカワバタだった
しずまれ!しずまれ!
ユキオがヨシミの手をひいて川から現れた
川はユキオだった
ユキオが川で鈴の音は川の音
お母さんがオレンジ色の作業服でそれらを交通整理していた
日に焼けて充実してそうなお母さん
あたしには違和感があった
こんなつらそうな仕事かわって欲しい
お母さんが自慢げにビニール袋にはいった飴玉をヨシミに見せてきた
ここの親分のタマさんがあそこの金網にくくりつけておいてくれたんだ
ユキオがうるさかった
ユキオってサヤマのこと知ってたっけ
カワバタが可哀相に思えた
ジジジ、ジジジ、蝉が鳴いている
もうこんな川あきちゃったよ
ジジジ、ジジジ、お母さん、お母さん、
ジジジ、お母さんって幸せ?
お母さん、お母さん、あたしのこと好きだった?

ケイタイが鳴っていた
ヨシミは枕もとの充電中のケイタイを引きずりあげた
留守電のマークがある
カワバタからだと思った
カワバタからだった
目を閉じたまま留守電のアナウンスに聴き入った
時刻を告げ電子音のあとカワバタの声
ヨシミは暗闇のなかでそれを聴いていた
暗闇のむこうでお母さんがオレンジ色の作業服を着て振り返ってくれた
日に焼けた鼻から肉の厚いあごにかけて汗が流れていた
さっきまで見ていた夢をヨシミは思い出していた






自由詩 オレンジいろの汗 Copyright 吉岡ペペロ 2010-06-05 14:48:09
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