nonya


山奥の針葉樹林で生まれた
朝露のひとしずくは
無数のひとしずくと共に
苔や羊歯の間を縫って
ひたすら傾斜に従う流れになった

渓谷では
無邪気にはしゃいで
いたずらに透き通って

水門では
不条理に堰き止められて
我先にほとばしって

橋の下では
物思いをぼんやりと映して
悔しさを投げつけられて

田園風景では
ゆったりと大人ぶって
惰性という言葉を覚えて

住宅街では
せめぎ合いに疲れたまま濁って
不満の泡を吐きながら滞って

ビルの足元では
コンクリートで蓋をされて
見捨てられた闇で声を殺して

それでもひとしずくは
わずかな傾斜に促されて
流れずにはいられなかった

たとえ
川の取るに足りない記憶の痕跡に
過ぎなくても
出来損ないのエイチ・ツー・オーに
成り下がっても
新幹線の高架橋をくぐればまもなく

海だから





自由詩Copyright nonya 2010-06-02 21:25:41
notebook Home 戻る