ゆるやかに
大覚アキラ
仕事と仕事の間の
エアポケットのような
30分間
中崎町と天六の真ん中あたりの
こじんまりとしたおしゃれなカフェで
居心地の悪さを背負いながら
コーヒーを飲む
午後2時
この街は
昼と夜で
流れている空気が違うので
呼吸の仕方にも
昼と夜で
ちょっとした工夫が必要だ
なのに
この街の昼の空気に慣れていないおれは
コーヒーを飲みながら
むせてしまったりする
よく行ったあのカウンターだけの店も
随分雰囲気が変わって
いまはもう
前を通るだけになってしまった
そもそも
あの人と一緒でなければ
あの店に行く意味もないので
たまにしか足を運ばなくなった
この街のことを
おれは
ゆるやかにわすれていく
あの店の名前も
あの店のバーテンの人懐っこい笑顔も
苦手なアルコールのせいで赤くなった頬も
明かりの消えた人気のないアーケードも
冬の空気で冷え切ったブレスレットの冷たさも
風にかき消える煙草の煙も
繋いだ手の暖かさも
こうやって
ゆるやかにわすれていくのだ
なにもかも
ゆるやかにわすれていくのだ