全手動一行物語(81〜90)
クローバー
81
棚の上に置かれた卵の装飾から産まれたカッコウのひなは、早速、置き時計を下に落とした。
82
あなたは、私の中から一回り小さい私を取り出し、その中からまた一回り小さい私を取り出し、を繰り返した。
83
獏が夢を見ないと言いはるのは、食い意地はっていると思われたくないから。
84
配達に来た団地の重い金属製の扉を開けると、ピザ屋の制服を着た男が立っていて、当たり前のように、料金を請求してくる。
85
詩人が、愛を伝えようと三日三晩悩んで書いた手紙は、一つの症例として学会に取り上げられた。
86
盗賊は、この屋敷に丈夫で大きな箱があると言う噂を聞いて、それだけ大事な中身なら、盗み出してやろう、と試みたのだが結果、中身にされてしまった。
87
彼女は、近眼の彼が眼鏡を外すと視界が10センチ以下になるのを知って、自分と会うときは外して欲しいと伝えた。
88
紫陽花は、複数の花が丸く集まって大きく咲いているように見えるが、ひかえめに隠れているのが実際の花であるところが女学生のようだ。
89
透明人間も、透明な空気や水が積み重ると青く見えるように、実は青いので、半人前扱いしかされない。
90
冗談のように無口な彼女の余白が、詩集になって店頭に並んでいる。