大好きな詩人を紹介してみます  「日夏耿之介」
非在の虹

「書斎に於ける詩人」

それゆえに・・・・・
儂(わし)は雪の振る日の午下(ひるさが)り
水晶のやうに明るい牕(まど)ぎはの長椅子でこれを誦(よ)む
嗚呼(ああ) 書籍よ
爾(なんじ)の古拙な 聡明な 慣習の信仰の 肌触りを嬉(うれ)しみ泥(なず)み
わが情想沈着(おちつ)きて 淑(しと)やかに もの柔かにほそぼそと
私語を交す 黙(もだ)しあふ
『クロイランド僧房年代志』その智慧ふかき眼光(まなざし)よ


いやいや・・・引用だけで、ちょっとめげそうでした。
漢字の視覚的な効果が、もうすでに人をよせつけまいとするようです。

この骨の折れる?詩人こそ、ぼくの文字フェチ時代?の神様、日夏耿之介(ひなつ こうのすけ)です。

冒頭にあげた詩は、詩集『黒衣聖母』の「書斎に於ける詩人」という一篇。
その第一節です。
これは冬の読書。
さらに春、夏、秋とおのおの季節の読書が語られ、静かで重々しく詩人の書斎探訪はおわります。

日夏耿之介は1890年(明治23年)生まれ。1971年(昭和46年)になくなりました。
大正から昭和にかけて活躍した詩人です。

処女詩集の出版が、萩原朔太郎のおなじく処女出版『月に吠える』と同じ年です。

彼はみずからの詩を「ゴシック・ローマン詩体」と呼んでいました。
この一語から、怪奇と幻想の詩人と考えるのは、いかにも安易なのですが、
その漢字への偏愛、語句の特殊、そして、古めかしい洋館の一室で革装の書物を開いて読むような内容。
一読すっかり彼の詩にまいってしまったぼくは、思潮社版詩集を肌身はなさず持っていたのです。

ひとたび日夏の詩集をひらけば、そこが新宿の喫茶店であっても、神田の「吉野家」であっても、たちどころに「古めかしい洋館の一室」あるいは「錬金術の秘法をひもとく隠者の実験室」にしてしまうパワーをもっていました。

まさに日夏耿之介の秘儀と言ったらいいでしょうか。

それでは、詩集『咒文』(じゅもん)より「咒文乃周囲」の末尾を引用します。


あはれ夢まぐわしき密咒(みつじゅ)を誦(ず)すてふ
邪神(かみ)のやうな黄老(おきな)は逝(さ)った
「秋(さわきり)」のことく 「幸福(さいわい)」のことく 「来し方(こしかた)」のことく


できれば、ここでまた、大好きな詩人を紹介してみます。
(参考文献もろくにそろえないままにこの文章を書いています。まちがいがありましたらご教示いただければ幸甚です)


散文(批評随筆小説等) 大好きな詩人を紹介してみます  「日夏耿之介」 Copyright 非在の虹 2010-05-29 12:37:49
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