未慣性モーメント
高梁サトル


不完全な過去 不確実な現在 無知な未来



カスタネットの赤と青が嫌だったから
いつも校庭のすみっこで地面に円を描いてた
繋ぎ目がゆるんで共鳴しなかったから
いつも答案用紙の上でシャープペンを回してた

あの頃は昼休みに僕が握ったおにぎりを
きみが「しょっぱい」と言って食べてくれれば
僕のなみだはきみの中で分解されて消えた



皮膚の断層の間に張り付いて剥がれない
幾重にも重なった自分を思い知る午前
セーラー服姿で教科書を焼き捨てて

真っ黒な炭が真っ白なリボンを汚す
いつの間にか私に塗り潰された僕が
息苦しそうに咳き込みながら
時々歪んだ微笑み浮かべてる

砂漠の真ん中で階段が波打った
医者に「メニエール病」と診断された午後
先祖がえりした生き物と乾杯して

真昼の熱を包んだ夜風に癒される帰り道
いつの間にか私に覆い被さるように僕が
聖母のような微笑みで
時々鼓動と呼吸のリズムを外してる



直線 平面 三角 四角
好きなものを選んでいいはずだったのに
どれも手に馴染まないと言って
複雑な幾何学模様を選んだきみは
僕の一番古い記憶を再現していることに気付かない

あの頃の渦巻いていた何かがよみがえる予感
あんなに毎日一緒に食べたおにぎりの味を
きみは忘れてしまったのだろうか



無重力に放たれた未慣性モーメント


自由詩 未慣性モーメント Copyright 高梁サトル 2010-05-27 23:24:48縦
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