アリゾナ
salco

思い出の場所など私は要らない
そんなものは核弾頭の餌食にでもしてしまえ
思い出の場所には誰もいない
大地に在るのは私の影法師だけ
雑草と風だけ
足下には消滅した時間の残骸が
捨てられた土産物のように散らばっているだけ
誰がこんなゴミを拾うものか
手を伸ばせばいつでも触れた人々は
地中深くに埋め立てられて
私には叫びの捨て場も無い
何故私は処刑を免れているのか
判らぬまま生きている
けれど罰は受けているだろう?
胸に巣食った悲哀だけが現実だ
その痛みは
いつになったら老いぼれてくれるのだ?


消えるということ
消え得ぬこと


御巣鷹山に拓いた山道を毎年登る遺族達がいる
あの尾根の真上に天国があるのなら
あの人達は迷わず梯子を造るだろう
そして登って行くだろう

だがあそこは昇魂の地ではない
煉獄へ投げ込まれた無辜の絶叫が
消え果てた場所なのだ
彼らはせめてその地獄に近づきたくて行く
小枝に引っかかった無数の肉片が
紅蓮の火影に揺れていた静寂の中へ、
愛する者の無念を拾いに行くのだ
拾っても拾っても尽きぬ断片を拾いに行く
それが追憶の中だけに閉じ込められた、
理不尽に存続の権利を断たれた者の最期に接近する
唯一の手段だからだ

御巣鷹山 御巣鷹山 御巣鷹山

植物の親和性は静謐に在る
自然は恢復し地面は緑で覆われ
黒く爛れた往時の無残は何処にもない
ならば地面を撫でるしかないだろう
そこには誰もいない
ここには何ひとつ
ならば、人を
呼びながら虚空に涙を見せてやるしかないだろう
会いたい会いたい会いたいよと
言い続けるしかないだろう?


自由詩 アリゾナ Copyright salco 2010-05-27 00:15:04
notebook Home