家事をするけだもの
吉田ぐんじょう


衣替えが近いので
冬服を夏服に入れ替えることにした
天袋の奥にしまいこんでおいた段ボール箱をおろし
夏服を一枚ずつ箪笥の引出しにおさめてゆく
最後に
去年の夏によく着ていた
さくらんぼ柄のワンピースを広げると
茶色く干からびたさくらんぼの実が
ばらばら落ちてきて
あっという間に
ワンピースは無地になってしまった
安物だったからだろうか

しばらく考えた末
アパートの敷地内に咲いていた
シロツメクサを何輪か摘んできて
ワンピースにくるみ
一晩置いておくことにした
うまくいけば明日には
シロツメクサ柄のワンピースになっていることだろう


浅蜊のお味噌汁を作る
春に産卵を終えた浅蜊の殻の中には
身が入っていない
代わりにどういうわけか
薄桃色の女のくちびるが
折りたたまれて入っていることが多い
あまいあじがするから
それはそれでいいのだが

その他にもこの時期は
秋刀魚を捌くと
はらわたの代わりに
夕暮れ色の花がごっそり入っていたり
路傍の雑草を引き抜くと
根の代わりに
手首がずるっとついてきたり
どうもおかしなことが多い


数日前から
喉がいがいがしている
イソジンで嗽をしても
のどあめをなめてもちっとも治らない

口を可能な限りあけて
鏡で確認すると
食道に
柔らかい毛がびっしりと生えてきていた
心なしか
八重歯も随分とがっているようだ
ひょっとしたらわたし
体の内側から
けだものに戻りたがっているのかもしれない

そうと気づいてからは
コーンフレーク
ハムバーガー
毒々しい色のメロンソーダ
ゼリービーンズ
などの
なるべく文明的なものを
努めて食べるようにしている
怖いのだ
服の畳み方も包丁の握り方も
いつの間にか忘れてしまった

夜半
我に返ると
鏡に映る自分の顔に向かって
必死で爪を立てている

咳き込むと
灰色の毛のかたまりが
ごろごろと
いくらでも湧き出てきて止まらない

わたしこのまま
人間じゃなくなってしまうのでしょうか



自由詩 家事をするけだもの Copyright 吉田ぐんじょう 2010-05-24 13:26:08
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