温度
たもつ
ワイシャツにアイロンをかけているうちに
見知らぬところまで来てしまった
さっきまでいっしょにいた妻や娘の姿も見えない
どこか淋しい感じのするグラウンドで
赤勝て
白勝て
子どもたちが玉入れを競い合ってる
その真ん中で一人
アイロンをかけ続けている
容赦なく紅白のお手玉が頭や腕にあたる
アイロンをかければかけるほど
ワイシャツは皺だらけになっていく
それでもせっかくかけたのだから、と
皺くちゃになったシャツを
ハンガーにひっかけて吊るしていく
いくらかけてもワイシャツは
山のように積まれ一向に減らない
日が暮れる
沖の方に漁火が見える
もう既に膝のあたりまで海に浸かっている
すっかりくたびれて
このままどこまで行くというのだろう
もしかしたら一生このまま
同じ作業を続けなければならないのではないか
と不安にはなるけれど
自分の一生が明日も続いている、ということには
何の疑念も抱くことなく
時々アイロンの温度を確かめたりする