難破船が、出港する。船であるからには。海が。あるからには。心優しい、友人たちよ。惜しまないでくれ。わたしは。幸福とひきかえに、世界を。手にするのだから。
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棒のようなものを、ふりまわす。疲れ果て、杖にして歩く。夏のおわりに、杭として打つ。地中ふかく、夜と昼と朝の。悔恨はのびて。銀河の、水脈が破られる。
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聖杯に血を受ける。知と力の過剰が、めくるめく幻像を呼ぶ。わたしは、どこか中世の街にいて、そこでも、ひっそり、詩を。いや。あてのない、恋文を綴っている。
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自然は魔法であり、愛すべきことに、人間はまだ、原始的である。朝の通学路。ハナミズキの花が、雨のたびに、ひとつずつ、灯り、やがて、昼の電飾のように、咲ききる。
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雨のなかにいると、わたしの内側からも水が流れ出て、しぼんでしまいそうだ。かけぬけていこう。きみの。黄金の夜明けまで。新たな、苦悩と懐疑のはじまりまで。
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過ぎてしまえば、ただはてしなく、無であるとしても。水星の韻文を、朽ちていく刹那の、ひとこまごとに打電する。
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何度も。くりかえされる。執拗に、すり込まれる。伝説となる。あなたには、商業的な。喝采を。閾に沿って、のびる影を踏みつけ、わたしは。どこまでも、夕焼けの外縁をたどる。
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長距離走者の、股間のように。ストイックで、排他的論理和である、わたし。もう、だれも。泣きながら、歌うな。少年少女は、詩をかくな。
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剣も。棍棒も。魔法も。使わず、六芒星の。ちからにも、頼らずに。たったひとりの、誕生日を。ジャンバラヤつくって、麦酒で祝う。
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歌は。水のながれ、そのおもてに、名をしるす。墨色の面影、あなたを悩み。潰滅した、わたし固有の、領土の空を。青くあおく、塗布するために、磨いた技術です。
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解のない夜明け、恋の。あなたは、四次元ユークリッド空間から帰還する。実体化が済みしだい、メールしてください。そこが、たとえ世界の外側でも、迎えに行きます。
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「メビウス商店街」の、色あせた看板が、入射角度でかたむく。むかしむかし、夏の。太陽のした、水のからだの、男の子、女の子、みんな蒸発して。わたしの影は、ゆらゆら、シャッター通りをぬける。
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あなたは、逆位置で立っている。背をまるめ、風に向かって。花の囁きを、蒐集している。ポケットはふかく、金色の沼まで、とどいている。聖衣のひとよ。かたわらで、ぎこちなく、鳴っているのが、わたしです。
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ふりかえっても、何もない。あるきだす、あてもない。ただ、目に見える範囲に、牡丹の花が。くずれかけている、他人の庭の前で。胸と背中に、電話番号を大きく、刺繍されたジャージ姿の。老人に、帰り道を尋ねられた。
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毎朝、顔を洗い落とし、描きなおす。目鼻が立たず、バラバラで。福笑いのようだ。出勤前に、テレビ占いをチェックする。「行ってらっしゃいませ。牡牛座生まれの方。今日の、あなたのラッキーアイテムは、アスワンハイダムと、大日本帝国陸軍九九式軽機関銃です」
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あなたが、詠唱するとき。またひとつ、星が消える。180億光年の彼方で。そこで生まれたとしても、わたしは。その星の言葉で、詩をかいただろう。きっと。
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雨あがり、金雀枝の。黄があざやかに、目にしみる。今日はここで。酒をのもう。ずっと。花を見ていよう。暗くなったら、蛍の売人を。呼びとめて、明かりを買おう。
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いっしんに。風のうら、おもてを。読みふける、その耳もとで。そっと、あなたは。しんじつの、名を告げた。薔薇のしたで。わたしの蹉跌、わたしの封印。わたしの、ふるさと。
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宝石の、瑕に。白く、たおやかな。指を、突き入れて。あなたは、朝をひらく。うまれたての、鳥のかたちの。ことばを呼びだして、空へ放つ。それが、いちにちの、はじまり。
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その声は、五線譜に。とどまることなく、軽やかに跳ねる。樹木よりも、尖塔よりも。ときとして、禁断の高みまで。その声に、操られて。わたしは、踊りつづける。死ぬまで。
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あなたは、世界の鍵を。漏洩している。やわらかい、鏡面に沿って。したたる、蜜の単純命題。わたしたちは、たがいを。映し合う、関係のなかでしか。孤独でいられない。
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うつむいたまま、それでも。歌を、うたっていた。悩みが、ふかいほど、あたらしく。ながい、なみだの隧道をぬけて。いま、あなたが、顔をあげる。アポロンの表情で。太陽を宣言する。
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