書物の家
クローバー
1
小鬼、閉じこめた春雷
ささやきはインクに紛れて
その扉を通り抜けて、火の粉が散る
誘い込まれた、お菓子の家
小鬼をめくる
13ページ目、はじめまして。
2
小鬼、紙を食む梅雨
重なるように二つ並んだ靴跡
小さい靴と大きな靴
小鬼をめくる
124ページ目、こんにちは
扉に、尻尾の切れた蜥蜴が這う。
3
小鬼、殴り書く秋雨
解れていく木々の葉
アスファルト膨らみ摩擦は光る
小鬼をめくる
239ページ目、こんばんは
雲の上は平和。
4
インクに紛れた、紙は白く
小鬼、隠れ消える降雪
指をかけるページも、その扉も
瞬くように、また白くなる
雨音を吸う降雪
聞き取れるささやき、さようなら。