雑事のレモン
木葉 揺

隣のビルに向かって叫ぶ

レモン!

酸味を含んだ飛沫が
届くといいと思って

レモン!

屋上で
柵に手をかけて
 
レモン!

箱詰めにしたレモンを
宅急便で送っておいた
ダンボールをかき回す人たちの中
レモンを手にとって
食べようとしない人が
声に気づくといいのに

レモン!

言い終えて空と別れる
階段に呑まれようとする

隣のビルで誰かが
Rを押したとき
最上段でつまずき
胸を打ちながら降りた
ベストのボタンが跳ねて
頭を越えてゆく
床に突き出されたとき
皆が雑事に追われる音が聞こえた
来てくれたのは
自分の足だった

レモン

つぶやくと頭の中に
さっき叫んだ数のレモンが
ごろごろ押し寄せてきた


自由詩 雑事のレモン Copyright 木葉 揺 2010-05-22 00:23:16
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