季節ごとに近しくなるものもの
吉田ぐんじょう

(春)

伝線したストッキング、国語辞書、スケッチブック、埃、先のまるまった鉛筆、花柄の布団カバー、キオスク、アルミフォイル、たまごサンド、青い軽自動車、浴室のタイル、制服、文房具屋、バス停、スーパーのレジの人のピンクのマニキュア、そらまめ、上野動物園、人家の隙間からとろとろ流れ出てくるカレーのにおい、闇の向こうに立って手招きしている桜、

(夏)

ゴム長靴、西武百貨店、無数の二の腕、ビニール傘、風呂上がりの濡れたくるぶし、ルーズリーフ、ゴールデンレトリバー、バターデニッシュ、プラスチックの釦、深夜の信号、レースのカーテン、サーカス、大量の海月、ドラッグストア、階段、マクドナルドで喧嘩するカップル、生乾きのデニムスカート、遠くから聞こえてくる踏切の音、階段、影法師、神社、

(秋)

公園のベンチ、カーディガン、読みかけの本、煮干し、証明写真、新宿紀伊国屋、庭の錆びた三輪車、住宅街、携帯電話、罫線の細いキャンパスノート、一瞬の寂しさ、アクリル毛布、ベレー帽、さびれたスナック、悪夢、電車の時刻表、死に遅れた蝉、緑色の公衆電話、2Hの濃さのシャーペンの芯、鞄の底から出てくる印字のうすくなったレシート、おさまらない空腹感、

(冬)

画数の多い漢字、黒髪、煙突、東京タワー、肋骨、アスファルト、かけうどん、パイプ椅子、東京メトロ、放課後、夕暮れのコンビニ、映画館、学生証、インスタントラーメン、スターバックスコーヒーの紙袋、温泉に猿が浸かっているニュース映像、二階建てのアパート、ふと感じる気配、視線、深呼吸、静謐、サイレン、書き終らない手紙。




自由詩 季節ごとに近しくなるものもの Copyright 吉田ぐんじょう 2010-05-21 18:13:43
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