ブロックされたもの
森の猫

別れることを真剣に
考えたのは6年前

もう 関係は10年以上
冷え切っている

欝をわずらって
捨てられたあたしは
それでも
わずかな希望を見出していた

SOSは何度も出した
話し合いも 試みた

でも そのたびに
”ふん”
の ひとことで片付けられた

あの 決定的な言葉は
あたしの脳の中で
ブロックされて
未だ 出てきてはいない

それから
週末が近づくと
吐くようになった

子どもをはさんだ
同室では
帰ってくる気配がすると
電気を消した

横を向き
背中が痛くなるほど
身体を硬くしなければ
眠りにつけなかった

いや
眠れなかった
3時間おきに 目が覚める
死への誘いが 頭をよぎる

最上階のベランダから
下を見下ろす

ここから飛んだら
死ねるのかな

飛びたい衝動に駆られる

死にたいと口にして
涙を流す

死への誘惑が消えてゆくと
今度は
消え入りたい
自分を この場から
消し去りたいとの
欲求が強くなる

週末 ビジネスホテルや
友人宅を渡り歩く

罪悪感などなかった

この家は
あたしを必要としていない
いつも そう思っていた

あたしは
あたしは

いったい 何なんだ

いても
役に立たない
欝のオンナじゃない

薬代ばかりかかって
働くことも 料理もできない

かろうじて
簡単な家事をこなす

体調のよいときだけ


いくつかめの病院で
カウンセリングをうけることが
できた

望んでいたことだ

カウンセリングを始める前に
いくつかの心理テストがあった

そこには
夫の影が モンスターとして
現れていた

気づかなかった
こんなにも あんなひょろひょろとした
男に怯えていたなんて
押しつぶされていたなんて

そのテストは
あたしの心理状態をまざまざと
見せつけた

どんな タイプのカウンセリングがいいですか
話すことを選んだ

カウンセラーのドクターとは
相性がよさそうだったから


あれから6年

あたしは
あたしらしさを
取り戻してきた

怖いものはない
うまい 逃げ方も学んだ

うまく眠れないほかは
一応 一見普通のひとだ
まだ いつくかの薬を飲んでいるが


だが
あの ブロックされた
忌まわしい言葉は
出てこない

脳が拒否しているのだ
身体を守っている

欝がよくなっても
この先 思い出さないかもしれない

しあわせだった
昔のことは
ときどき 思いだすのに

ブロックされたもの
それは
あたしの 黒い闇の部分

あたしを解放へと
向かわせる
原動力だ


自由詩 ブロックされたもの Copyright 森の猫 2010-05-20 15:52:30
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