遠い眼差し
高梁サトル
いなくなったきみを探していたら
僕は自分を見失ってしまった
砂浜を歩くたどたどしい足元が
早く何処かへ連れて行ってくれないかと
波にさらわれることを望んでいるこころは
宙に浮いたまま地に着くことはなく
・
他人は皆
悲しみなど早く忘れてしまいなさいと言う
そんなこと何千回何万回も
神経が擦り切れるほど考えてきたことなのに
どうすればいいのかと
薄皮を剥くように忘れてゆく
忘却がヒトの最も優れた能力だというなら
また過ちを繰り返す道理は正しいのだと思う
震える頬や唇や睫毛に
きみが宿っている気がする
幻想は愚かさの象徴だね
頭では分かっているのに
きみが消えない
遠浅の海岸を眺める潤んだ眼差しに
恋に似た感覚を覚えて
・
誰かを愛したいと願う
それは愛した誰かより強い想いを要する
そして
誰も愛さなくても生きていける現実
凍えて固まったこころを
握り潰して砕いてしまいたい渇望
終えたいんだ
もう
いいだろう
掌に乗せた小鳥を空へと放つ
巡礼の仕度は整っている
・
わざと安いモーテルに泊まって
誰の侵入も拒んでいる
記憶さえも沈黙に隠して
ウィスキー色したグラスに薬が溶ける
約束したんだ
花を見に行くと
それを独り守っている僕が
・
誇りを失ってヒトは生きてゆけると思うかい
きみに会いたい
もう一度
それだけだ
言葉を交わしたいわけじゃない
願いはひとつ
それ以外欲したことはない
リピートされる無限カノン
想い過ぎればこころは壊れる
そんなことさえ諦めてゆく
きみが首を縦に振れば
答えは「イエス」だ
微笑んで