この血はこんなにも叫んでいるのに
朽木 裕
現像液にひたしても現実は定着せずに零れ落ちた
ねぇ私、生きてるよって
この血はこんなにも叫んでいるのに
自分が今、此処に生きているのかさえ分からない
モノクロォムの罪と罰
暗室で君と交わした言葉
どれだけ印画紙に焼き付けても
心だけ定着せずに崩れ落ちていく
今、私は本当に此処にいるのかな
それすらも分からない夜に
子供よりも簡単に迷子になる
掴まえていてね、なんて
おこがましくて云えはしないから
忘れないでね、とだけ、ひとまず伝えておくよ
大丈夫、心配しないで
きっと自然なことだから
夜の雨が存在を撹拌して撹拌して
そのうち土に命が消えるみたいに
この血はこんなにも叫んでいるけれど
届かない願いなんて珍しくもなんとも、ない