詩作過程 / ****'04
小野 一縷
黒人の肌 ぎらつき 呼吸に波打つ筋
それを照らす 白金の太陽
槍の尖 限りなく零に近い 一点に灯る
定められた使命 狩りの前の舞踏
散る 汗の
白人のガレージに隠された ステンレスのオートマティック
スライドの ヘアラインに
空の青を映した 藍色の金属 激鉄の重さ
殺害 または 負傷させる為
弾頭に刻まれた 確信的十字
鈍い 鉛の
それらの艶で思考を照らし ペンのインクへ光沢料として溶かし
二種の性器だけが持つ 曲線を想いながら 文字を連ねて 描く
それが 新しい詩の為の 破線になる
あとは もう一度 ペンで なぞれば それでいい
言葉を連れて 迎えにいく
季節を進行する 数々の瞬間 断続 継続
昨日と今日 その微かな 気だるさの違いから
イメージが流れてくる
脳裏に 熱く 鋭く 速く 重く 甘く
化学的な計算法で それらの経路を
文字で築く 詩作法
ずっと雪が 降り続けている 今夜
明朝には また雪が積もっているのだろう
この町の 冬は永い
夜空 寒月を 仰げば
月光に 刺されて毀れた
氷晶 飛沫に なって
漆黒 雨雲に 衝突 拍車をかけ 更に雪を降らす
吹雪に巻かれた 月の金切り声が 街灯に 跳ね返る
深々と 白と黒 二色に 町が埋もれてゆく
文字を書き続ける 行 句 連 編
詩が 構築されるまで
言葉が 降り終える頃
いつだって 朝が近い
今日のこと 明日のことすら 何も考えてはいない
ただ 詩のことを考えている
それだけを思っている
この時が いつまでも 続けばいいのにと
夜の暗さと共に ずっと保持したくなる
もう朝だ
雪は止んでいた
車が雪に埋もれている
6時37分 車に積もった雪を片付けて 仕事へ向かう
7時40分 始業 50分前 到着
車中 煙草を吸いながら 印刷した詩を推敲する
8時12分 車を降りる
降りる間際 家に帰ったら 「また詩作をしよう」と思う
8時13分 職場の入り口をくぐる
タイムカードを押す
朝礼の後 いつも通り労働する
休憩と終業の時間だけを気にして
いつも通り労働する
17時30分 終業
17時40分 帰路へつく
18時47分 帰宅
18時52分 夕食
19時05分 薬を飲む
19時10分 入浴
19時36分 PCとステレオの電源を入れる
20時20分 詩作開始 例の詩作法を用いる
現在 23時42分 昨日の分 眠るのは 明日
現在 2時48分 詩を書いている
雪の降り終えた夜を 真直ぐ見上げると
睫毛の裏 細やかな死角に隠れる 星の屑
冷たさに瞬きして ノートへ視線を戻せば
零れ落ちる文字 ペンを走らせれば
言葉が少しずつ 積もってゆく
罫線同士の隙間が 埋まってゆく
目盛を減らしていく
針を刺し込み 内溶液を静脈に注ぐ
SとM 相反する性癖を 同時に満たす
その行為に似せて
現在 4時56分
まだ 詩を書いている