山岸美香

降り出した雨で
黒い道路がいっせいに音を立てて
激しく破裂した。
アスファルトの色が、
より深い黒に染められていく。
落ちることしか出来ないのに
精一杯、地面を蹴り上げて跳ねたがる雨を
走る自動車のライトが照らせば
まばゆい瞬きになる。

無数の激しい雨粒は
ひとりで下校する
子供の鳴き声を飲み込んで
荒れた風は
小さなからだを
たやすく吹き出す。

在りようをたしなめる様に
風は向こうに消えていき
曇り空が胸をいっそうざわつかせ
子供はようやく駆け出した。
濡れた靴で道を歩けば
足が情けなくも力強い音を生み出し
ひとつの呼吸が生まれて、
おもわず傘の中で
含み笑いが小さく揺らいでいた


子供の涙は、
終わったのだ。


自由詩Copyright 山岸美香 2010-05-11 00:20:15
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