神について
中村 拓人

 ◎
ある日
目がさめると、ぼくがぼくの部屋の窓辺から
こっちを見ていた。
やあ―窓辺のぼくがそういうと
ぼくはぼく自身に血が注がれるのを感じた

ぼくはぼくと朝食を食べた
皿の上にブドウの種を並べていった
すべてが完璧な朝だった
ぼくとぼくは靴を履いていなかった

恋人は
ぼくたちに会うと(うれしいとも悲しいとも言わず)
涙を流してくれた
そして、ぼくがぼくの名を忘れると
しだいに街中の人たちは影を失ってしまった

TVは
うつらなくなっていた。ただぼんやりとぼくたちの影が
うつっていた
やあ―TVにむかってそういうと
ぼくも恋人も少しずつ言葉を忘れはじめた
ぼくと恋人は空に言葉を書きはじめた

    ◎
僕たちには友だちがいます
今日はとてもよい天気です
私たちは怪我をしています

ただぼくたちは書きつづけた

僕たちはときどき野球をします
私たちの国はとても寒い場所にあります
僕たちは歩きます

ただぼくたちは書きつづけた

僕の家に病気の妹がいます
僕は歌をうたうことができます
今日はよい日です

最後に恋人があたたかくなってしんだ
ぼくはぼくに「さようなら」を言った
ぼくは恋人に「さようなら」と言ってわかれた
恋人は何もいわずあたたかいゆびで

触れて

くれた

ぼくはひとりで神様にあった
本当にあった
やあ―窓で神様がそういうと
テーブル
からこぼれた水が床で水たまりをつくっていた
夕日が水たまりにうつっていて
ぼくは世界に
やあ―と言った



自由詩 神について Copyright 中村 拓人 2010-05-05 22:49:55
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