神について
中村 拓人
◎
ある日
目がさめると、ぼくがぼくの部屋の窓辺から
こっちを見ていた。
やあ―窓辺のぼくがそういうと
ぼくはぼく自身に血が注がれるのを感じた
ぼくはぼくと朝食を食べた
皿の上にブドウの種を並べていった
すべてが完璧な朝だった
ぼくとぼくは靴を履いていなかった
恋人は
ぼくたちに会うと(うれしいとも悲しいとも言わず)
涙を流してくれた
そして、ぼくがぼくの名を忘れると
しだいに街中の人たちは影を失ってしまった
TVは
うつらなくなっていた。ただぼんやりとぼくたちの影が
うつっていた
やあ―TVにむかってそういうと
ぼくも恋人も少しずつ言葉を忘れはじめた
ぼくと恋人は空に言葉を書きはじめた
◎
僕たちには友だちがいます
今日はとてもよい天気です
私たちは怪我をしています
ただぼくたちは書きつづけた
僕たちはときどき野球をします
私たちの国はとても寒い場所にあります
僕たちは歩きます
ただぼくたちは書きつづけた
僕の家に病気の妹がいます
僕は歌をうたうことができます
今日はよい日です
最後に恋人があたたかくなってしんだ
ぼくはぼくに「さようなら」を言った
ぼくは恋人に「さようなら」と言ってわかれた
恋人は何もいわずあたたかいゆびで
触れて
くれた
ぼくはひとりで神様にあった
本当にあった
やあ―窓で神様がそういうと
テーブル
からこぼれた水が床で水たまりをつくっていた
夕日が水たまりにうつっていて
ぼくは世界に
やあ―と言った