怪物と少女
itukamitaniji
怪物と少女
ひとりぼっちの怪物は 通りをのそのそ歩く
大きな体に黒い翼 怖がってみんな逃げ出す
友達が欲しい。 優しい瞳から大粒の涙を
いくら流しても 怪物はひとりぼっちなのでした
ある日の怪物も ひとりぼっちのそのそ歩く
ある時 通りの真ん中で転んだ少女
怪物は近付いて 大きな手で小さな手を掴みました
微笑んだ少女 それが一匹と一人の出会いでした
だけど怪物は不思議でした 自分を見ても
逃げ出さない人間は 初めてだったから
そして少女は言いました
私は目が見えないの。
でもあなたは優しい人、だって手のひらが温かいから。
世界は真っ暗で、私はずっとひとりぼっち。
けどそれにももう慣れた。 少女は悲しく笑いました
何か出来る事は無いかな。 怪物は考えた
誰かの為に 何かをしたいと思ったのは初めてでした
ずっと大嫌いだった 自分の背中の黒い翼
誰もがそれを見て 悪魔だ、悪魔だ、って言う
少女を抱えたら 翼を広げて飛び立ちました
目で見えるものじゃなくても、感じれるものを探そう。
強く柔らかく吹く風 晴れた日や雨の日の匂いとか
君の手に触れる全ての物 耳に届くたくさんの歌
…あとなんだっけ? とにかくたくさんあるんだ。
怪物は少女に 一生懸命それを伝えようとしました
風吹く丘で 怪物は少女にこの世界のことを
出来るだけたくさん 延々と話しました
あまりに怪物が 夢中で話すものだから
少女は笑って いつまでも話を聞きました
その日の夜 少女の夢に神様が現れて
少しの時間だけ 目が見える薬を授けました
いつ何を見るのかは、あなた自身が決めなさい。
神様はそう言って 朝にはもう消えていました
怪物が話した世界は とても広くて
本当にたくさんの物が 溢れているから
何を見ればいいのか 少女は長いこと悩んだけど
やがて大切な答えを 少女は見つけたのでした
風吹く丘で 神様がくれた薬のことを
少女は怪物に いつものように話したのでした
それは良かったね、素敵なものが見れるといいね。
怪物はそう言って 笑ったのでした
私が見たいものはね。
そういって少女は 怪物の目の前で
薬を一気に 飲み干してみせたのでした
怪物は驚き戸惑いました 僕の姿を見たら
きっと少女は 逃げ出すに決まってるって
怖くなって 逃げ出そうと震えている怪物に
少女は寄り添って 小さな手で大きな手を掴みました
この世界には たくさんの物があると
あなたは一生懸命 わたしに教えてくれたね
どれも素晴らしいけど 私が一番見たいものはね。
大切な友達、あなたの姿。
それ以外何も無いのよ。
そう言って少女は 怪物の優しい瞳をじっと見つめて
やがてふっと笑いました その少女の笑顔が
あまりにも優しかったので 怪物もつられるように
二人で長いこと 笑っていたのでした
はじめまして。
ありがとう。
…それじゃ、さようなら。
薬の効果が切れて また少女の目は見えなくなりました
だけど少女の世界は 真っ暗じゃなくなったのでした
さようなら、なんかじゃないよ。
少女にばれないように 怪物は大粒の涙を流しました
だけど怪物は ひとりぼっちじゃないのでした