ヒゲ
がん

僕と君とは同じ穴のムジナだと言いきってしまうのも、きっと悪くない。
同じところに住み、同じような色の服を着て、朝と夜は同じ時間にご飯を食べているのだし、君は僕のことを家族だと言ってくれているのだから。

朝、君が出かけるとき、僕は少しさびしいけれど、何も言わずにお見送りをする。
君のことは大好きだけれど、それが僕の役割だから仕方がない。
本当は、行ってきますのキスだとか、そんなこともしてみたいのだけれど、君より背の低い僕はベッドの上以外で君とキスをすることに少し抵抗があるし、何よりも君の後ろ髪を引いちゃいけないと思ってそんなことしないことにしてる。
僕は家で君の帰りを待つ。まるで慣れた犬みたいに、キリン程に首を長くして、もしかしたら、鼻だって長くなっているかもしれない。とにかく、君を待っている。
昼は退屈な時間だ。趣味でも持てばいいんだろうけど、何をやっても長続きしない。趣味は君と遊ぶことくらいだ。だから、君のいない昼の時間は退屈なんだ。
夕方になるといそいそと玄関の方に耳を立てている。君が帰ってくるときは、車の音がするから。

時々、君は男の人を家に連れてくる。見るからにオスといった感じの風貌で、僕は敵わないなとつらい気持ちになる。
君はその人と僕に「ご飯の支度をするから一緒に遊んでて」と声をかけてキッチンの方に消えてしまう。残された僕たちは、仕方なしに遊ぶ。
しばらくしたら君がキッチンの方から現れる。2人きりにされて不安だった僕は少し安心する。
それからしばらく、3人でテレビを見たりしてのんびりと過ごす。何時間もすれば良い時間になる。君と男にとっては良い時間かもしれないけれど、僕にとっては悲しい時間だ。
君と男とがベッドに入り、一緒に眠るんだ。
僕は邪魔者扱いで部屋の外に出されるけれど、中から声がする。君が鳴いている声だ。
僕は、「助けなきゃ」と思うけれど、部屋には鍵がかかっている。
前に、同じようなことがあって、僕は男に噛みついてやったんだ。よくよく見てみると、男も君も裸だった。
なんとなく、気まずいように思ったけれど、それでも僕は君を守りたかったから、男に向かっていった。男も、僕のことを数回叩いてきた。
君は「やめて」といって僕のことを庇ってくれたけど、それから僕は部屋を出されて、部屋は鍵で閉じられた。

今日の夜も君の悲鳴で気が滅入るのかと思うけれど、僕にはどうしようもない。
部屋の外で「にゃあ」と泣く。


自由詩 ヒゲ Copyright がん 2010-05-04 17:03:21
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