春、あれから
百瀬朝子

どこにいても
ここにいても
みんないってしまう

――節目の春

大切なものほど遠くへ
あたしは呪った
世界を
運命を
孤独を
この身に触れるすべてを

たくさんのさよなら
一気に押しよせてくる
処理する速度も能力も失くした
潰れそうな心で眠ってしまおう
朝がすべてを嘘にするって
誰かの声で聞こえる

この涙、
濡らすのも
乾かすのも
こぼすのも
あたしのいとしいものだけ

なんて幸福な帰結!

さよなら
さみしいなんて言えない
ずっと離ればなれだった
あたしとあなたには
ふさわしくない

「さよなら さみしくなるよ」
少し先の未来を思った

呪いは褪せて
桜の蕾に浮き足立って
あたしをゆらす
ゆらゆらと土にかえる

あれからあたしは元気です

鼻の奥がつんとする
それでもあたしは元気です

風にふかれる両の頬が
ヒリヒリと痛みます
それでもあたしは


自由詩 春、あれから Copyright 百瀬朝子 2010-05-03 21:56:48
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