『月面着陸』
東雲 李葉

汚れた空気が
やんなって
カルキ臭い水も
飲みたくない
言葉話すすべてが
わずらわしくて
誰もいない世界へ行こう と
飛び乗った 宇宙船

空 空 空

空気の層
突き抜けて
向こう側
飛び越して
いくつもの犠牲を払って
飛んでる 僕ら
はるかな大地へ

君は歌ってる
大嫌いだった惑星のうた
僕は聴いてる
マスクの向こうの唇を
愛してる って
何度も言ってる
それは 誰の歌だっけ

いくつ目かの朝か夜か
(お昼かも知れないし
夕暮れかも知れないけど)
ぽんぽん ぽんぽん
跳ねながら
青い 青い 惑星を見て
何かをずっと 叫んでる
何て言っていたのか
あえて
僕は聞かなかった
それは誰への
手紙だったのか
なんとなく
分かった気になっていた

いくつ目かの昼か日暮れか
(夜更けかも知れないし
朝方かも知れないけど)
君は目に涙を溜めて
かえりたい と
確かに言った
ぼくもそうさ と
素直に言えた
自分の声も 忘れていた
だけどもう
宇宙船は動かなくて
無機質に輝く流線形
なぞるだけの果てない孤独

さよなら さよなら
青い惑星よ
さよなら さよなら
僕らは黄色い砂になる

さよなら さよなら
光年先の未来のふたり
さよなら さよなら
僕らは涙の海に溺れる


自由詩 『月面着陸』 Copyright 東雲 李葉 2010-05-03 01:29:14
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