切り取る
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隣の駅の「肉のハナマサ」まで歩いている途中の酒屋さんの店先で、くたびれた薄い茶色の背広を着た初老の男性がアイスのケースを探っていた。
青いパッケージのモナカを手にし、小銭を探る。
その、猫背のフォルム。
なんなのか、
それを見た私は非常に安心した。
夏、という大きな輪郭を感じたからなのか。
私も、その男性も、或いは小銭を受け取る店主も、
誰もつながっていない、バラバラの要素に過ぎず、
知らないひとだらけの都会の真ん中でひとり生活をする私は
時々その事実に耐えられなくなる
思考世界へ大きく偏る方が安全だと
「詩はもっと自由であるべきだ」などという大それたことをぽつぽつと考え
歩いている、バラバラの自分、を意識しないように意識していた
けれども
その風景はそんなこと覆すくらい、圧倒的に大きなものを持っていた。
おそらくそれが、夏
思考を停止させる暑さと、夜の明るさと、浅はかさ。
夏は、私を陥れない
それは、どこまでも安全だ。
私はそれを知っている。
見知らぬ猫背のモナカが告げる 詩は自由になりにけり