マーケットプライスレス
メチターチェリ

日曜日 桜ははけて 古城を囲うお堀の濁水が媚びさえ売らずぬるく照り返す水面の気がよく晴れた正午すぎ
ごくごくささやかに 家庭的なもののなぐさめを求めてスーパーマーケットへペダルを漕いで行く

わずか3日前 ジャンクフードの呪縛を解き放ち自炊をはじめた私のキッチンに作り置きのためのラップは無い
その他 欲をかけば鍋をする時に備えてポン酢やダシの素もほしいところ

自宅から一番近いライフに着いて駐輪場に自転車を停めると「母の日花ギフト」ののぼりが立っているのに気づいた
こんなところにも家庭がにじみ出ているのをうれしく思う

休日の店内には家族客が多く 母親に手を引かれた子供が父親の制する買い物カートを押したがっている
せっかくのゴールデンウィークに旅行もできない不憫な家庭だろうか
あるいは初日の遠出ラッシュには出遅れても 明日は家族でUSJへ行くのかもしれない

空のカゴを下げて 何を買うともなく店内を1周してスーパーマーケット中の生活を共感してまわる
人の生活を浴びることで自分の生活感が増す幻想の味わいが好きだ
価格高騰の野菜を見ると我が事のように家計を憂うことができるし
五目ちらしの素を見てさえ 近く子供の日に甘く炊いた酢飯を頬張る我が子の笑顔を想像して幸せを育んでいるつもりになれる

試食コーナーのウインナーを 通りすがりのふりをして何度も何度も往復している食いしん坊の少年
あれは小学生の私であり 私の子供である
私の幸せは私の中に 人の手に触れられないほど深く卸売されはしないが需要もないだろう

M寸卵と低脂肪乳1パック チキンラーメン2袋を手に入れて 私は気分朗らかに我が家に帰る


自由詩 マーケットプライスレス Copyright メチターチェリ 2010-05-02 21:10:51
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