月の嗤うさき7
……とある蛙

成り成りして成り会わないところと
成り成りして成り余っているところを
刺しふさぎて

霧に包まれた丘の上に浮かぶ洋館
その二階の出窓は開け放たれ
類人猿の咆哮が丘の下まで響き渡る

すべて霧の中 洋館の輪郭は滲んでいる

咆哮する類人猿
じっと視線をこちらに向けたまま
直接頭に語りかける。
落ち着いた意識で

しかし

イザナミ?

私はイザナミでは無い。
おまえは最初のヒトではない。
歩き疲れた猿ではないか。
私はおまえを知らない
私はおまえと何を語ればよいのだ
おまえの子など孕めない
片端しか

突然穏やかな意識は荒れ狂い
意識の中ですら
砂嵐のような混乱

イザナギは叫ぶ

もういやだ。
もう二度と歩かない
なぜ歩かねばならないのだ。
俺はおまえに会えと言われた
だが俺はおまえを知らない
おまえは俺を知らない。
俺は猿では無い
おまえは一体何者だ

Nowhere

イザナギは虫を食わない
 施しを受けたものも食わない
イザナギは獣の肉を食らう
 路傍の草ももちろん食らう
イザナギは自力で掠め取る
 食い物を自力で掠め取る
イザナギは人を殺す
 カンに触る者はなんでも殺す
イザナギは恫喝する
 自分を畏怖しない者を恫喝する
イザナギは闇夜に潜む
 自分の正体がばれないよう闇夜に潜む
イザナギはヒトを騙す
 騙される前に騙そうとする。
イザナギは神を騙す。
 神とは何だ。何をしてくれた。
イザナギは女を犯す
 ただ生殖のため、イザナミに会うためのつなぎだ。
イザナギは悩む
 もういやだ
 もう二度と歩かない
 
結局何か意味があったのだろうか
俺は何者だ

 イザナギは咆哮する。
 イザナミに向かって咆哮する。

成り成りして成り会わないところと
成り成りして成り余っているところを
刺しふさぐ

真の天照
水蛭子を産ませるため


自由詩 月の嗤うさき7 Copyright ……とある蛙 2010-05-02 17:01:52
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