絵本
石黒あきこ
二ペイジ――ある光たちが生まれ寄り添い、
限りない凝縮と拡散を繰り返す。永遠を覚悟
していた闇が解き放たれ。
三二六ペイジ――まだ足らないのかもしれ
なかった。それでも満足していた。混沌と濁
る水の中。ヒレを動かし、胴をくねらせてみ
る。藻を食む。言葉など知るすべもなかった。
八九四ペイジ――済んだ大気の中、可憐に
揺れる一輪の花。地から伸びた手に摘みあげ
られ、新たに生を告げる場所へと、舞う。
二六五九ペイジ――少年と少女。それは完
成された形。あるいは、ふいに出会った男女。
あるいは、姉と弟。父と娘。主と仕え人。艶
めく果実をはさんで萌芽した感情は、濁流を
作り上げ、なにもかもを押し流そうとする。
あるいは。母と、その、母。
二九五二ペイジ――荒れた丘の中腹に。力
なく開かれた眼は、白い蝶を追っていた。砕
ける鉄の甲冑。刃の触れ合う音。燃え尽きた
厩。彼は、葦毛の腹に刺さる一本の矢を許し
ていた。悲しみはなかった。風の囁きを、た
だ、待つ。
三〇〇四ペイジ――彼女はレタスとして産
まれた。レタスとして名づけられ、レタスと
して育った。ただ見続けるものは、母の膨ら
んだ乳房。母以外の言葉を持たない時間が、
滔々と流れる。伸びすぎた髪をまとい、踊る。
光の届かない場所で、レタスとして、思う。
(おかあさん)
三一〇六ペイジ――幾度となく舞った花が、
アスファルトの隙間に再び根を下ろす。
三一二八ペイジ――彼方。すべてを包み、
目を細めた光は確かな揺らぎを生み続ける。
詩と思想2010年3月号読者投稿欄掲載