珈琲たいむ
服部 剛
五十歳で転職した新人さんが
仕事の後に、眉を八の字にして
僕のところにやって来て
日々の不安を、打ち明けた。
物書き志望でベテラン介護士の僕と
人生をやり直そうとしている彼が
「正職」の椅子を争っている事など
露も知らずに
まじめな彼は、話し続け
胸中複雑な僕は、耳を傾け・・・
周囲の職員はいつのまにか
姿を消して
彼と僕の二人だけ
部屋に残って肩を並べていた
「さて、今日で全部は教えられないから」
果てない話を、僕は打ち切り
家に帰ろうと背を向けると
不安げに書類をみつめる
彼の姿は、昔の僕の姿のようで
帰る前に
ゆげを昇らせる
一杯の珈琲を入れて
彼の机の上に、置いた。