月の嗤うさき1〜2
……とある蛙



霧に包まれた類人猿の咆哮は
全ての言葉を包み込んだ
異様な振動を部屋の中に持ち込む
全ての言葉は何の目的で語られているのか

不明

類人猿は苛立ちを覚えながら、
剥き出しにした牙をこちらに向けて
私の脳髄に直接語りかける

ここまで来たのだ
イザナミ

ボツボツ類人猿は言いたいことを語り始めた。
俺は恥かきっ子だ。

類人猿の声が遠くにこだまする。



突然暗転したさきは森の中
類人猿の恥かきっ子を眺めている。
何処なのか何時なのかも分からない
何故、恥かきっ子を眺めているのか
どこから眺めているのかも分からない。

森の中で両腕を着いて屈んでいる恥かきっ子は
突然空腹を覚え歩き出した。

静々と歩み始めた恥掻きっ子は、
獣道を中腰で歩き続けて、
水のある川岸まで
キョロキョロしながらたどり着いた。

川岸の潅木は少し腐りかけていたが、
得意の木登りで川岸に張り出した枝にぶら下がり、
裂いた蔓の皮の先に死にかけの虫を括りつけ、
淀んで腐った臭いのする水面に垂れ下げて
狙う 
粘り気のある波紋は
奇妙な黄色い発酵ガスを撒き散らしながら
枝の上にぶら下がった恥掻きっ子を直撃した。

臭いに目眩を感じながら恥掻きっ子は、
魚影は褐色の水面の下に見えないのだが、
彼は赤い顔をしてじっと我慢して待った。

待った待った待った待った
まったまったまったまった

待っている間に彼は眼が悪くなった。
鼻が利かなくなった。
木登りが疎ましくなった。
そして、生きている意味を考えるようになった。

一匹だけ掛かった魚は、
赤い色の魚で腐ったような臭いを発していた。
それを貪り食らって
突然恥掻きっ子は脳髄を重く感じた

地上に降り立った彼は真っすぐ天を仰いだ。
天頂には黒い月が輝き星一つ無い。
右腕を真っすぐ上げ
彼は天頂の黒い月を指さした。

彼は 今 ヒトになる。
っと 同時に私の中に薄暗い想念が横切る。
そして、
そして、孤独、寂寥感

悩みという名の荷物を背負って
沼の周りの黄色い道を歩きだした。
ゆっくりと


自由詩 月の嗤うさき1〜2 Copyright ……とある蛙 2010-04-27 14:32:43
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