鏡の愛
非在の虹



あなたの
愛とはなにか
あなたの愛は鏡だ
鏡面の清潔さ涼やかさ
嘘などおよそない明らかさだ
朝の訪れの濁りのない晴朗だ
夏の真昼の陽炎立つ地平への
いちどきりの望みの率直さだ
はじめておとずれた町で聞く晩鐘の
きっと正しいであろう道を歩いていることへの確信だ
あなたに愛されることは秋の始まり
見たこともない蒼さに思わず
声を上げ誰かに告げたくなる
空の奥ふかさへのあこがれだ
あなたに愛されることは真冬
辿りついたストーヴの
あふれる暖かさだ
でも愛とは?
鏡とは?

あなたの目にうつっているのはわたしだろうか
ひがな一日あなたが見つめているのは
身も狂うばかりのしあわせだろうか
あなたが見ているものは
ただ一つだけだ
あなたの前に
置かれた

静謐な鏡
ものいわぬ光
それが愛の姿だ
あなたに愛されることは
鏡となってあなたをうつしだすこと
あなたの愛は鏡ではあるがほんとうは
あなたが愛しているものは鏡だけではないのか

鏡の中の自分
わたしを見てもその向こうに
鏡に映る自分を見ているのだ
鏡の中にはきっと悪魔が住んでいる
それがわたしを暗い嫉妬の沼に突き落とすのだ
静かな湖面のような鏡のおもてにも
知らずざわざわと鳥肌がたつ
鏡の悪魔は悪魔の鏡となって
立ちはだかる

わたしはあなたの鏡を壊すだろう
鏡を壊さずにはいられない
わたしのこぶしで
鏡を壊す
それがわたしの愛
壊すことによって取り返す
壊すことしか獲得するすべはない

あなたの
鏡とはなにか
あなたの鏡は
あなたじしん
愛とはなにか
あなたの



自由詩 鏡の愛 Copyright 非在の虹 2010-04-25 19:20:18
notebook Home