一周忌
ヒロダ ヨシミ
桜の散る音がきこえる
背中の遠く向こうから
さわさわと
さわさわと
風にこすれて舞い散る花びら
ああ
この季節がまた巡ってきた
そういえば去年の今ごろ
すっかりと弱り果て
起き上がることもできないあなたへ
桜の花びらを届けたっけ
背伸びして小枝をちぎって
走って病室へ行ったのに
子供へと還っていたあなたは
顔をそむけていらないって言ったっけ
ごめんね、ごめんねって
頬をゆっくり撫でたら
声にならない声を出してから
また静かに眠っていった
そう
あれから一年が過ぎた
桜散る音に背を向けて
右の手のひらを見つめている
ざわざわと
ざわざわと
心がこすれて霞むゆびさき
あたたかいあなたの頬
冷たいあなたの頬
もう一度触れたいと願いながら
代わりに落ちるひとつの雫
あたたかい液体が
徐々に冷たくなっていく
それさえも耐えられなくて
手のひら強く握り締める
あなたの居ない日常は
いたって平穏に過ぎていく
あまりにも凪いでいるから
忘れることなど出来なくて
ほら
こんなにも会いたい
桜の散る音がきこえる
背中の遠く向こうから
さわさわと
さわさわと
途切れることなく続いている
けれど振り向くことなく
少しずつ歩みを進める
遠ざかっていく花びら
気配だけを感じながら
握り締めた手、そのままで