ただただ白い部屋で
打ち寄せる雨を聞いている
恋人は壁に向かって立ち、
このキューブに広がる柔らかな影だけがわたしの在りかで。
降り続く水分を
冷えきったグラスに満たし
その柔らかな影を染ませていく
(わたしの望む不安すべてを被害妄想だとわらってください。わたしのあの日の過失を残らず罵ってください。わたしをただただ消費して痛々しく縫い合わせたこの皮膚をすこしずつあなたが破いていけばいいの。そこからこぼれだすぜんぶを無価値だと断言してわたしのなにもかもを蔑んでください。いっそわたしの間違いをあなたが照らし出して真っ白にはぜたならすぐにでもわたしはとべたにちがいないの。とべたに、ちがいないの。ねぇ、そうよ。とべたにちがいないの。)
恋人の柔らかな影を
ゆっくりと染ます
出ていく為の傘を手渡し
ただただ白い部屋に佇む恋人の影に触れる
そこからは確かに香りたつ匂いがあって
たぶんそれはわたしを立ち止まらせた六月、
みみもとにこぼしたくちびるのしとやかな甘さに似た、
その欠片なんだと思う