まるでレーズンバターみたいに
真島正人


優しく笑って
優しく微笑んで
優しく黒ずんで
まるでレーズンバターみたいに



詩を口にすると
表面がはがれていく



薄いコーティングを
誰のためにしたんだっけ
砂糖菓子を
台風が崩していく



捨て駒のような
人々の群れが
ネオンサインと
ネオンサインと
婚姻を交わす



これは街の話ではなく
これは人の話でもない



壊れやすいから
大事にしていた
そんなことは
一過性の話



上手くいかないと
すぐに泣いてしまう
同情を誘いたいのではないの
ただ体がそうなってしまっただけで



優しく笑って
優しく微笑んで
優しく黒ずんで
まるでレーズンバターみたいに



らっらっら
らんたった
いいメロディーはどこにもないなぁ



いいメロディーってなんだろう
人の心に作用するのかな
よくわからないから
「たぶん薬みたいなものさ」
と嘘をついておこう
犬に餌をやりに
庭に這い出した朝
天空から一瞬だけ
いいメロディーが覗いたような気がしたけど

ま、気のせいだね



みんな
残滓を
吸い出して
なんとか
動いてるみたいに見える



リベラリストのふりをしている
あいつが
酔うとひどいことばかり口にする
その負のオーラで
息も絶え絶え



「鈍感でなきゃ生きていけない」
なんて俺も
テレビの標語みたいなことを口にするようになったよなぁ
と照れてみるとき、
確かに唇に
煙草をはさむ癖を忘れているよ



でも
敏感肌に
優しいことばかり薦める
テレビが
ばしんばしんと
君の敏感な心に
突進して
苦しめているような気がするのはなぜだろう
ってこれも
当たり前の標語か
わりぃ
わりぃ



あ、
忘れてた
忘れてたから急に思い出したように口に出しておこうかね



優しく笑って
優しく微笑んで
優しく黒ずんで




あぁ
なんて
下手な
歌の歌詞みたいな
無意味なフレーズ



昨日見た夢はトナカイの夢
たぶん
意味なんてない
むしろ寝る前に考えたことのほうが意味があるような気がしているよ
ふと
浮かんだあんな
嫌な考え



空が軟体動物みたいにぐんにゃりとして
「それが愛の寓意です」
って電話がかかってきた
誰だよ、お前
「それが愛の寓意です」
なんて答えになってねーだろうがと
いらっときて
受話器を置いたら
今度は星の群れが落ちてきたんだ
イテェ
イテェ
やめて
やめてよ
って全部
妄想だった

本当はお酒を飲んでいただけだと思うんだけど
どうなんでしょう
「それが愛の寓意です」
っていわれてみたらそんな気もするようなしないような
重要なことのような
全然そうじゃないような

やっぱ無視しよう



小さいころ
自分の慰め方が
よくわからなかったな

小さいころ

そんな頃
俺の口元にレーズンバターが飛んできて
その黒ずんだ甘い味で
口の中が
お菓子みたいになった

幸せだったよ
輝いていたよ

あれ
なんだ

やっぱ
意味のあるフレーズなのかな
レーズンバター
カリフラワーよりは確実に
好きだけど



優しく笑って
優しく微笑んで
優しく黒ずんで
まるでレーズンバターみたいに


自由詩 まるでレーズンバターみたいに Copyright 真島正人 2010-04-22 14:21:44
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