自転車に乗って
ふくだわらまんじゅうろう

ぼくは
その
映画を観なければ
ならない
きっと
その義務が
ぼくには
ある

ぼくの虐めていた
女の子が
死んだ
小学校の頃
虐めていた女の子が
死んだ
引越しして
ぼくは京都の中学校に行った
女の子はそのまま
地元の中学校に通った
ぼくがいなくなった後でも皆は
女の子を虐め続けた
小学校よりも酷い虐め方で
女の子を虐め続けた
誰も女の子を
助けられなかった
誰も女の子を
助けることができなかった
ぼくは京都の中学校に通って
それでも女の子のことを忘れなかった
忘れられなくて
忘れられなくて
夏休み
夜行列車に乗って
女の子のいる町に戻った

女の子の家は
二丁目にあった
ぼくは毎日
自転車に乗って
女の子の家を探していた
だけどぼくは
間違っていたんだ
ぼくがぐるぐる回っていたのは
二丁目じゃあなくて一丁目だった
ぼくは三丁目の隣が二丁目だと思って
ぼくの家は四丁目にあって
その南隣りが三丁目だからって
そのまた南側をぐるぐると
ぐるぐるとぐるぐると日が暮れるまで
自転車で回って
女の子の家を探していた

女の子は図書係だったから
放課後
図書室で
ぼくは友達たちと騒ぎまわった
わざと図書係に注意されるように
そして自分なりに意味ありげに
本なんかひとつも読まずに
ぼくは友達たちと騒ぎまわった

やがて女の子は
本気で怒った
本気で怒って
ぼくを注意した
ここは図書室です
そして、ぼくは
男の子だった
女の子を蹴飛ばした
ぼくは女の子を
蹴飛ばしてしまった!

偶然に通りかかった団地のベランダ
日曜の朝の朝露のついた手すりの上を
拭いている女の子を見つけた
ぼくは自転車で
気がつかないふりをして
その前を通り過ぎた
そこがその町の
ほんとうの二丁目だった

ぼくがその町に戻ってみた夏
女の子は
もう
死んでいた
ぼくの知らない
他の小学校から来た
女の子の同学年の
他のクラスの奴にナイフで
ナイフで刺されて
お腹を刺されて
女の子は
もう
死んでいた
ぼくは何をしにその町に戻ってみたのか
ぼくは何をしにぐるぐる自転車で回っていたのか
ぼくは何をしに図書室で騒いでいたのか
ぼくの蹴飛ばし方がいけなかったんだ
それから皆で女の子を虐めるようになったんだ
皆で女の子を蹴飛ばして
皆で女の子の悪口を言って
皆で女の子の噂をして
皆で女の子を
嫌いになっていったんだ
ほんとは誰も
そんなことはしたくなかったんだ

世界中が
ぐるぐると回った
空も地面も
夏だった
ぐるぐると回ったけれど
ぼくは倒れなかった
倒れるわけには
いかなかった

ぼくは小学校のところまで
歩いた
あの図書室で
首をつろうと思ったからだ
だけど小学校の
門には鍵がかかっていた
昇降口にも鍵がかかっているんだろう
すべての教室に鍵がかかっていて
たぶん図書室にも
鍵がかかっているんだろう
そして今でも
いつまでも
鍵がかかっているんだろう




自由詩 自転車に乗って Copyright ふくだわらまんじゅうろう 2010-04-21 23:34:45
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